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そばの味は「挽き方」で決まる ― 石臼挽きそば粉のはなし

そば粉は、同じ品種・同じ産地でも、「どう挽いたか」で香りも打ちやすさも変わります。私たち倉科製粉所は、自分たちでつくった石臼を自分たちで調整し、石臼が一周するあいだに挽き切る「石臼一回転挽」で、玄そば本来の香りを残すように挽いています。

倉科製粉所の自社製・尺八寸石臼一回転挽プラント
自社製「尺八寸石臼一回転挽プラント」。石臼挽きにこだわって製粉しています。

「同じそば粉なのに、なぜあの店のそばはこんなに香るのだろう」。そば打ちを続けていると、一度はそう思う瞬間が来ます。私たち倉科製粉所は長野県大町市で1890年(明治23年)からそば粉を挽いてきましたが、その答えのかなりの部分は、品種でも産地でもなく「どう挽いたか」にあります。

今日は、そば粉の挽き方の話を、できるだけ専門用語をかみ砕いてお伝えします。これから粉を選ぶ方の、ものさしになれば幸いです。

挽き方は大きく二つ ― ロール挽きと石臼挽き

そば粉の挽き方は、ざっくり分けると二つです。

ひとつはロール挽き。金属のローラーで玄そばを効率よく砕いていく方法です。たくさんの量を一度に挽け、粉の粒子がそろいやすいのが特徴です。価格を抑えやすい利点もあります。

もうひとつが石臼挽き。石の臼で粒をすりつぶしていく方法で、ロール挽きにくらべて粉の粒子が不均一になりやすいのが特徴です。意外に思われるかもしれませんが、この「不均一さ」が手打ちには向いています。粒の大きさにばらつきがあるほうが、水を含んだときに生地がつながりやすく、打ちやすいのです。そしてもうひとつ。粒がそろっていないぶん、噛んだときの歯ざわりが単調になりません。のど越しにも厚みが出て、香りの立ち方にも波が生まれる。この揺らぎが、そばを「おいしい」と感じさせてくれます。手間はかかり、一度に挽ける量も少ない。それでも昔ながらの粉屋が石臼を手放さないのには、こうした理由があります。

そして石臼挽きで、もうひとつ大切にしたいのが「香り」です。

そばの香りは、とても繊細で、熱に弱い。挽くときに摩擦熱が上がりすぎると、その香りが文字どおり飛んでしまいます。だから私たちは、挽くときに余計な摩擦と手数をかけないことを大切にしています。その答えが、次にお話しする「石臼一回転挽」です。

私たちの「石臼一回転挽」

そこで私たちがこだわっているのが、石臼一回転挽という挽き方です。

これを支えているのが、二つのこだわりです。ひとつは、石臼そのものを自分たちでつくっていること。多くの製粉所は石臼メーカーから既製の臼を仕入れますが、私たちは自家製の石臼を使っています。もうひとつは、臼の溝を整える「目立て」を、自分たちの手でおこなっていること。目立てを石臼メーカーに任せきりにせず、自分たちで調整できる。この二つがあってはじめて、「石臼一回転挽」が成り立ちます。

ふつうの石臼挽きは、玄そばを何度も臼に通し、何回転もさせて少しずつ挽いていきます。けれど挽き戻すたびに、粉はまた摩擦を受けます。私たちは、石臼が一周する、そのあいだに挽き切ります。挽き戻さない。一回で挽き切る。こうすることで、余計な手数と摩擦熱を抑え、玄そば本来の香りをできるだけそのまま粉に残します。

聞くと単純そうですが、これがなかなか手強い。石臼一回転挽では、石臼の状態や原料の変化に合わせた細かな調整が欠かせません。私たちはその年の玄そばの状態を見極めながら、素材の持ち味を活かせるよう丁寧に製粉しています。自家製の臼と、自前の目立て。ここが効いてきます。私たち自身、毎日臼と向き合いながら、いまだに微調整の連続です。

石臼の目立て作業
石臼の目立ては、自分たちの手で。工房には尺八寸(約54cm)の石臼が並びます。

うまくいかなければ味は落ちます。だからこそ、ここに私たちは時間をかけています。

「いつ挽いたか」も、味の一部です

挽き方と並んで、もうひとつお伝えしたいことがあります。それは「いつ挽いたか」です。

どれだけ丁寧に挽いても、挽いてから時間がたてば香りは少しずつ抜けていきます。粉は生ものに近い。だから私たちは、できるだけ新鮮な状態でお届けできるよう、毎日製粉しています。倉庫に長く挽きためるのではなく、なるべく挽きたてに近い粉をお届けしたい。北アルプスの山のふもとにある大町の水と気候は、この仕事に向いています。

挽き方と鮮度。この二つがそろってはじめて、そば本来の香りがそば猪口の上に立ちのぼります。

粉を選ぶときの、小さなものさし

  • 「石臼挽き」と書いてあるかだけでなく、どれだけ新鮮さにこだわっているかを見てみてください。挽いてから届くまでの時間への姿勢に、粉屋の考え方が出ます。
  • 香りを大切にしたいなら、まずは少量から取り寄せて、打ってみて、ご自分の鼻で確かめるのがいちばんです。文章百行より、一度の水回しのほうが雄弁です。

倉科製粉所では、石臼一回転挽のそば粉を、産地や挽き方の違うものまで取りそろえています。たとえば、雑味を抑えた上品な「スーパーあずみ野」、味と香りのバランスがよい定番の「あずみ野」など、まずは打ちやすい一品からどうぞ。

よくあるご質問

石臼挽きとロール挽き、どちらがおいしいですか?

一概には言えませんが、目的で選び分けるのがおすすめです。ロール挽きは粒子がそろいやすく、安定して大量に挽けて価格も抑えやすいのが利点です。石臼挽きは粒子が不均一になりやすく、手打ちのときに生地がつながりやすいという特徴があります。さらに粒がそろっていないぶん、歯ざわり・のど越し・香りの出方に幅が生まれ、均一な粉にはない奥行きが出ます。香りと食感を大切にした手打ちには石臼挽き、と考えていただくとよいでしょう。

「石臼一回転挽」とは何ですか?

石臼を一周させるあいだに玄そばを挽ききる、倉科製粉所の製粉方法です。通常の石臼挽きのように何度も挽き戻さないため、摩擦熱と手数を抑えられ、玄そば本来の香りを残しやすくなります。摩擦熱を抑えられるため粉が乾燥せず、粉を手で握って開いた時に指の形がそのまま残るように、適度なしっとりさをまといます。

挽きたてのそば粉は届いてからどう扱えばいいですか?

届いたらまず袋を開けて香りを確かめ、なるべく早めに打つのがいちばんです。すぐに使わない分は密閉して冷凍保存してください。詳しい保存方法は、別のコラム「そば粉は生もの ― 風味を逃さない保存方法」でご案内しています。

130年、私たちがやってきたことは、結局この一行に尽きます。香りを逃がさないように挽く。 それだけです。

著者:創業130年 信州の石臼挽きそば粉 製粉メーカー
倉科製粉所 倉科